「第4回とめ研究所若手研究者懸賞論文」に応募いただいた論文について、最終審査を行なった結果を報告します。
人工知能は3回目のブームを迎え、研究の発展と計算機の性能向上を背景に活用の裾野は一段と広がり続けています。人工知能分野の研究は、今後の人と機械の共生社会を形成する要素として益々重要な役割を担うと見込まれ、研究支援が活発に行われています。
そのため当社は、今後の研究を担う若手研究者の育成と研究への支援の観点から、小さな一歩ですが毎年懸賞論文を募集しており、本企画が、若手研究者の経済面、モチベーション面での支援になれば幸いと考えております。
審査は、論文テーマに沿った、人工知能(知能情報処理技術)に関する内容であるかという観点と、様々な応用分野や要素技術に関しての論文を比較しますので、説明が論理的にわかりやすく展開されているかという観点とで検討して総合判定を行い、1件の最優秀賞と2件の優秀賞を決定しました。
最優秀賞は、「セマンティックセグメンテーション手法を用いた X 線画像からの椎骨検出」(森川大翔さん、和歌山大学大学院システム工学研究科)です。論文では、早期の発見を要する脊椎圧迫骨折を題材に、簡便かつ早期に診断できる単純X線撮影を用いた検査の、X線画像は不明瞭な場合が多い、X線撮影する際の体位は状況によって異なる、といった問題を採り上げ、撮影する際の患者の体位が様々であるX線画像における、CNNを用いたセマンティックセグメンテーションによる椎骨の検出手法が提案されています。
優秀賞は、近い将来、私達の身の回りで活躍してくれることが期待される生活支援ロボットに関するもので、「Switching Head-Tail Funnel UNITER による対象物体および配置目標に関する指示文理解と物体操作」(是方諒介さん、慶應義塾大学大学院 理工学研究科)と、「確率論理とマルチモーダル場所概念の統合による確率的プランニング」(長谷川翔一さん、立命館大学大学院 情報理工学研究科)の2件です。
前者では、高齢化が急速に進行する現代社会において、在宅介助者不足に対する解決策として、被介助者を物理的に支援可能な生活支援ロボットへの期待が高まっているが、人間からの自然言語による指示をロボットが理解する能力については未だ不十分という問題に対して、言語理解における対象物体および配置目標の探索に必要な推論回数を削減することが可能な手法が提案されています。
後者では、家庭用ロボットが生活環境で部屋の片付け等の家事支援を行う際に重要となる、物の配置場所に関わる知識を獲得することについて、ロボットが少ない場所の学習回数で、新規家庭環境における場所と物体の関係性に関する知識を効率的に獲得可能にする、確率論理とマルチモーダル場所概念を組み合わせたアプローチが提案されています。
これら受賞者の方々は勿論、全ての応募者の皆さんには、これからも積極的に社会の変化に対応する新しいセンスを持ち、自らがチャレンジし、具体的に工夫し提案し、そして実現していく、逞しい研究者・技術者になっていただきたいと期待しています。
2023年11月17日
審査委員長
株式会社とめ研究所取締役副社長
坂本 仁