「第5回とめ研究所若手研究者懸賞論文」に応募いただいた論文について、最終審査を行なった結果を報告します。
人工知能は3回目のブームを迎え、研究の発展と計算機の性能向上を背景に活用の裾野は一段と広がり続けています。人工知能分野の研究は、今後の人と機械の共生社会を形成する要素として益々重要な役割を担うと見込まれ、研究支援が活発に行われています。
そのため当社は、今後の研究を担う若手研究者の育成と研究への支援の観点から、小さな一歩ですが毎年懸賞論文を募集しており、本企画が、若手研究者の経済面、モチベーション面での支援になれば幸いと考えております。
審査は、論文テーマに沿った、人工知能(知能情報処理技術)に関する内容であるかという観点と、様々な応用分野や要素技術に関しての論文を比較しますので、説明が論理的にわかりやすく展開されているかという観点とで検討して総合判定を行い、1件の最優秀賞と2件の優秀賞を決定しました。
最優秀賞は、「流体力学シミュレーションの進展: 物理インフォームドニューラルネットワークの最適化への包括的アプローチ」(周文さん、東京大学大学院 工学系研究科)です。
論文では、流体力学システムを記述するための改良された汎用的な物理インフォームドニューラルネットワークが提案され、残差に基づく適応サンプリング、適応損失重み付け、および差分進化(DE)最適化アルゴリズムの利用によるシミュレーション性能の改善が検討されています。
優秀賞は、深層学習において重要なテーマである、最適化アルゴリズムと、データ拡張(Data Augmentation)とに関するもので、「連続最適化アルゴリズムの探索方向ノイズと深層学習モデルの汎化性能の関係」(佐藤尚樹さん、明治大学大学院 理工学研究科)と、「医用画像を用いた深層学習Data AugmentationにおけるSuperMixの有効性の検証」(稲森瑠星さん、東北大学大学院 医学系研究科)の2件です。
前者は、深層学習モデルの訓練におけるアルゴリズムの理論的な研究であり、連続最適化アルゴリズムである確率的勾配降下法(SGD)やモーメンタム法(SGD with momentum)が数学的な論理展開によって検討されています。
後者では、脳のMRI 画像や乳腺のマンモグラフィ画像等の医療画像において、画像上の重要な領域を認識し、重要な領域に重みをつけた上で複数の画像の合成を行うSuperMix手法の有効性が検討されています。
これら受賞者の方々は勿論、全ての応募者の皆さんには、これからも積極的に社会の変化に対応する新しいセンスを持ち、自らがチャレンジし、具体的に工夫し提案し、そして実現していく、逞しい研究者・技術者になっていただきたいと期待しています。
2024年11月1日
審査委員長
株式会社とめ研究所取締役副社長
坂本 仁